仏の種類 第四回 明王・天部

≪明王とは≫
如来や菩薩はとても優しい穏やかな顔をしています。何をしても許してくれそうですね。すると我々はどうなるか。調子こきます。そういうお調子者を恐い顔で威嚇、屈服、救済するに為に如来の命を受けて力づくで仏の教えを導こうとするのが明王です。武器も持っています。

≪明王の種類≫
不動明王・・・悪魔を降伏するために恐ろしい姿をされ、すべての障害を打ち砕き、おとなしく仏道に従わないものを無理矢理にでも導き救済されます。四の五の言わせない力強さがあります。一面二臂で剣と羂索(けんじゃく、縄)を持っています。
他に烏枢沙摩明王 愛染明王 孔雀明王などあります。
国宝
木造不動明王坐像(御影堂安置)・木造天蓋(教王護国寺)


法蔵寺 不動明王

≪天部とは≫
天上世界に住む鬼神を意味し、仏教を信じる心を妨げる外敵から人々を護り、仏法を守護するという役割をもっています。釈迦の説教に感動し、仏教に帰依した(他教、インド神話の)神々。七福神など仏教界の位以上に民間に親しまれています。

≪天部の種類≫
梵天・・・仏法を守護する役目。仏伝では釈迦如来が悟りを開かれたとき、悟りの内容は人々に説いて聞かせてもわからないだろうから説法は止めようとされましたが、梵天がお釈迦様にお願いし悟りの内容を人々に説法されるようお願いされました(梵天勧請)。これで仏教が世界に広がっていきました。
国宝
木造梵天・帝釈天立像(所在金堂)(唐招提寺)
木造梵天坐像・帝釈天半跏像(講堂安置)(教王護国寺)
乾漆梵天・帝釈天立像(法華堂安置)(東大寺)

帝釈天・・・元々はヒンドゥー教やバラモン教のインドラ神。インドラ神は、阿修羅とも戦闘したという武勇の神でしたが、仏教に取り入れられ、成道前から釈迦を助け、またその説法を聴聞したことで、梵天と並んで仏教の二大護法善神となりました。須弥山という山に住んでいる。柴又帝釈天などがあります。

持国天・・・四天王の一人。帝釈天に仕え、須弥山の東方を守護する神。持国とは国を持つ王の意味。
国宝
木造四天王立像(講堂安置)(教王護国寺)
木造四天王立像(浄瑠璃寺)
木造四天王立像(所在東金堂)(興福寺)
増長天・・・四天王の一人。帝釈天に仕え、須弥山の南方を守護する神。邪鬼を踏みつける姿。
広目天・・・四天王の一人。帝釈天に仕え、須弥山の西方を守護する神。外敵を威嚇する眼を持つ。龍を支配する。
多聞天・・・四天王の一人。帝釈天に仕え、須弥山の西方を守護する神。財福施与の性格も持つ。

毘沙門天・・・多聞天の別称。四天王の中で最強とされ、特別な信仰を得ています。
国宝
木造毘沙門天及吉祥天・善膩師童子立像(鞍馬寺)

弁財天・・・七福神の一人。別称弁天。福得の神。宇賀神との習合であるが、近年は仏教、神道、民間信仰が混合し、複雑になってきています。音楽、豊穣、弁舌、学問に御利益があるとされています。

韋駄天・・・増長天の八将の一人。寺院の伽藍の守護神。

金剛力士・・・開口の阿形(あぎょう)像と、口を結んだ吽形(うんぎょう)像の2体を一対として、寺院の表門などに安置することが多いです。
国宝
木造金剛力士立像 2躯(興福寺)
木造金剛力士立像 2躯(所在南大門)(東大寺)

≪まとめ  とてもキャラが立っている仏様たち≫
今回、仏の種類として説明しました。各寺院には檀家さんや地域の方々に信仰されている素晴らしい仏様が祀られてます。その仏の種類も位もさまざまですが、どれも古くから伝わる深い由緒があり、篤く信仰されています。その信仰のされ方は、ここに説明した仏様の性格に応じています(例えば、『お地蔵さんなら子供守る』ようなもの)。それを踏まえて各寺院にお参りに行くと、より深く仏像と関われると思います。
今回紹介した仏様の他にも様々な種類の仏様がまだまだたくさんいます。その仏様もそれぞれ個性的な性格を持っているので調べてみると面白いと思います。
そんな個性的な仏様が大勢いる仏教の世界は、賑やかだったり厳かだったり癒されたりハラハラしたりと様々な表情があるようです。想像するだけでワクワクしますね。

仏の種類 第三回 菩薩

≪菩薩とは≫
如来に脇侍し、如来の代わりに衆生を救済する。すでに悟りを開けるもの関わらず、菩薩として衆生の苦しみを癒します。

≪菩薩の種類≫
観音菩薩・・・阿弥陀如来の隣に侍る菩薩ですが、救いを求めている人があったらすぐにそこへ行って彼らの救済をすると言われており、如来様ほど畏れ多い存在でもないところから人気を集めたのではないかと思われます。如来にも勝るとも劣らない仏教界の超大人気スター。千手観音、馬頭観音、十一面観音、如意輪観音などなど様々な観音菩薩がいます。
国宝
木造十一面観音立像(渡岸寺観音堂安置)(向源寺)
木造千手観音立像(法性寺)
乾漆千手観音坐像(葛井寺)
木造千手観音立像(旧食堂安置)(興福寺)

地蔵菩薩・・・僧侶の姿をしている菩薩。子供を守るお地蔵さんとして親しまれています。道祖神と習合し道路に祀られています。『お地蔵さん』と呼ばれるのがとても似合うように思います。仏様のなかで一番身近に感じる仏様なのではないでしょうか。観光地のお土産屋に行くとお地蔵さんのキーホルダーとか貯金箱とかいろいろな地蔵グッズが並んでいます。扱いは完全にゆるキャラです。したわれている証ですね。六地蔵、トゲぬき地蔵など全国各寺院に多くの地蔵菩薩を見ることができます。地蔵和讃も有名。
国宝
木造地蔵菩薩立像(法隆寺)

弥勒菩薩・・・未来に如来になることが約束されている菩薩。56億年後です…。
国宝
木造弥勒菩薩半跏像(広隆寺)
木造弥勒仏坐像(慈尊院)

文殊菩薩・・・お釈迦様の隣に侍る菩薩。智慧を司る菩薩。三人寄れば文殊の知恵(智慧)
木造文殊菩薩坐像(所在東金堂)(興福寺)


法蔵寺 甘酒地蔵

仏の種類 第二回 如来

≪如来とは≫
仏教界の最高位。阿弥陀如来(阿弥陀仏、阿弥陀様)、釈迦如来(釈尊、釈迦牟尼仏)、薬師如来、大日如来など。如来の中でも、阿弥陀如来、釈迦如来、薬師如来、大日如来が四大スターでしょうか。はるか昔から大人気です。
厳密にいうと、この如来だけが『仏』です。如来とは、『すでに悟りを開いたもの』という意味があります。仏像としては、基本的に蓮華の台の上に、衲衣(ノウエ)という布をまとい、立ったり座っているものが多いです。衣装的には至ってシンプルで、装飾的なものもなく、質素な印象です。
『如来=仏=すでに悟りを開いたもの』
という意味ですが、後に述べる菩薩や、明王なども一般的に『仏様』と呼ばれています。今回は区別する必要があるので、『仏=如来』としましたが、日常では『仏=如来、菩薩、明王など』でよいと思います。

≪如来の種類≫
阿弥陀如来・・・阿弥陀如来には悟りを開く前の姿があり、法蔵菩薩という菩薩でした。如来というのは、菩薩から如来にランクアップするときに、いくつかの約束を果たさなければなりません。要するに公約です。公約をキッチリ果たした菩薩だけが如来になれるというプロセスがあります。阿弥陀如来(法蔵菩薩)は『極楽浄土に往きたいと願う人があれば、南無阿弥陀仏(念仏)によってみんな極楽に往生できる』との約束を果たしました。これが時宗、浄土宗、浄土真宗の根本となる大事な公約です。
ゆえに、阿弥陀如来は、苦しみのない清らかな極楽浄土へ導いてくれます。
本当は気が遠くなるくらいの時間をかけて(何十、何百回の人生を修行にかけても遥かに足りないくらい)すごく大変な修行をして、やっと悟りの境地(浄土)にいけるのですが、阿弥陀如来は『南無阿弥陀仏』があれば、『みんな極楽浄土に来ていいよ』という懐の深い仏様です。
『南無阿弥陀仏』とは『阿弥陀様に全てお任せします』という意味です。『南無阿弥陀仏』があれば、必ず極楽浄土(苦しみのないおだやかな世界)へ導いてくれるわけです。
国宝
木造阿弥陀如来及両脇侍像(仁和寺)
木造阿弥陀如来坐像(平等院)
木造阿弥陀如来及両脇侍坐像(棲霞寺旧本尊)(清凉寺)
木造阿弥陀如来坐像(講堂安置)(広隆寺)など

釈迦如来・・・この世に実在した仏様。インドの釈迦族の王子として生まれ、なに不自由なく暮らしていましたが、出家し様々な修行をし、菩提樹の下で悟りを開き、伝道のために各地へ赴き、80歳で入涅槃された。私たちにとってためになることを仏の教えとしてたくさん伝えてくれた仏様。灌仏会(4月8日、お生まれになった日)、成道会(12月8日、悟りを開いた日)、涅槃会(2月15日、入滅された日)が各寺院で行われています。
国宝
木造釈迦如来及両脇侍坐像(上堂安置)(法隆寺)
銅造釈迦如来及両脇侍像(止利作、金堂安置)(法隆寺)
銅造誕生釈迦仏立像・銅造灌仏盤(東大寺)
銅造釈迦如来坐像(蟹満寺)
など

薬師如来・・・病苦を癒す仏様。左手に薬壺(ヤッコ)を持つ。世界中の人々の病気平癒を願う。
国宝
木造薬師如来及両脇侍像(勝常寺)
木造薬師如来及両脇侍坐像(講堂安置)(法隆寺)
木造薬師如来及両脇侍像(醍醐寺)
など

大日如来・・・宇宙と一体であると考えられている仏様。胎蔵界と金剛界という二種類の姿がある。本来、如来は出家後の釈迦の姿をモデルとしているため装飾品は身に付けていないが、大日如来だけは豪華な装飾品や宝冠を付けています。また、螺髪(らほつ)ではなく、髪を結い上げている。金剛界、胎蔵界の姿でそれぞれ印の形が違います。
国宝
木造大日如来坐像 運慶作(円成寺)

仏の種類 第一回 仏の位

巷では、仏像ブームだそうです。
奈良でも遷都1300年行事で、国宝級の秘仏の御開帳や、普段見ることのできない伽藍に入れたりと盛り上がりを見せているようです。東京国立博物館での阿修羅展の大行列・大盛況ぶりはニュースでも大きく報道されました。阿修羅像のフィギュアも精巧な技術で評価が高い海洋堂の制作で発売され、すぐに完売となったようです。私も手に入れることができずとても残念に思っています。それにしても『像』の『フィギュア』っておもしろいですね。要するに、『像』の『像』です。
さて、『仏』の『像』、いわゆる仏像を鑑賞するにあたって、そもそも『仏』ってなんなのか、オシャカサマとかアミダサマとか、カンノンサマとかいっぱいあるけど何がどうなってんのかよくわからない、との方のために概要をザックリとご説明したいと思います。
今回は、第一回『仏の位』、第二回『如来編』、第三回『菩薩編』、第四回『明王編・天部編』としてまとめてみます。

仏の相関図

仏像のワンダーランド(JTBパブリッシング)より

『仏』と一口で言っても、実は多くの位と種類があります。
上記の図をとおり、ピラミッド型の序列があり、下位から『天部』、『明王』、『菩薩』、『如来』となっています。
『天部』である、大きな寺院の門で見られる金剛力士や、戦士のような勇ましい姿の四天王が仏教の世界を護り、『明王』が怖い顔で悪を威嚇し慈悲の光明で世界を照らます。その上に、『菩薩』の位があり、観音菩薩地蔵菩薩などが私たちに慈悲と智慧で仏教の世界に導き、助けてくれます。さらにその上の最上位が『如来』となり、阿弥陀如来釈迦如来などが全てを悟って全てのことを教えてくれます。
ここで言いたいのは、仏教の世界の下位にあたる金剛力士や四天王でさえも、人間からは遠く及ばない尊いものであり(天部の下に『将』『羅漢』という位もあります)、そんな天部の尊格からさらにはるか上位に『菩薩』『如来』が位置しているということです。それだけ仏教の世界が遠大だということです。
この関係を理解すると仏像だけでなく、様々な仏教の世界観がわかりやすくなると思います。
お寺に行くときは、このピラミッドを頭に入れておくとより面白く仏像をみることができると思います。
ちなみに、仏教の世界観を映画やマンガなどでフォーマットととして利用されている作品も多く見られます。

 

永代供養墓永代供養 三春